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ドキュメント

MAT Exhibition vol.2
「絵画の何か」
トークシリーズ「絵画の夕べ」
第2回「種明かしと方法」

花木|僕は大学に入学したのが2007年で、その頃印象的だった展覧会について話したいと思います。1つ目は、国立国際美術館の「エッセンシャル・ペインティング」(2006年)。当時僕は美術高校で絵を描いていたのですが、海外の現代絵画をほとんど観ていなかったので、とても印象に残っています。2つ目は、天野さんがゲストキュレーターで企画した岡崎市美術博物館の「『森』としての絵画:『絵』のなかで考える」(2007年)です。具象的な作品も抽象的な作品も同時に並んでいて、国内の絵画というものを幅広く捉えていた展覧会でした。僕自身はこれらを前提として、大学の学部で油画を学び、具象の作品を制作していましたが、なかなか良い絵が描けず苦戦していました。卒業制作には、洞窟のような絵を描きました。その頃、画家の丸山直文さんの個展「透明な足」を観に行って、雷が落ちたような衝撃を受けました。ここで絵画のイメージと絵の具の両義性みたいなものを意識させられました。一般的に鑑賞者がいないと絵は不在に等しいということをよく言われますが、絵のメディアの特性である正面性、イリュージョンや奥行きについて認識し、やっと「絵画」ということを考え始めたきっかけになりました。
大学院の修了制作の作品はMDF合板でフラットなパネルを作り、絵の具を塗っていきます。絵の前に人が立った時に、視界がギリギリ外れるくらいまで絵の縁がくるようなサイズを比率計算して、絵と鑑賞者の関係性について意識しました。ただここで1度行き詰まりのようなものを感じました。モチーフに意味を持たせなかったこと、自分の都合で線を描いていくことに必然性があるのかを考えてしまい、この後1年間くらい絵が描けなくなりました。絵が描けないので、美術批評を読み直してみたり、美術史を勉強したりしました。
最近の作品では、建築を新たなモチーフに描いています。まず制作したのが、建築家ル・コルビュジエの代表作「サヴォア邸」の写真からトリミングして描きました。建築物が持つ構造体と、そこに投影される光や影を色面にする仕事です。この作品をきっかけに、建築の構造体と絵画の空間を考えながら対峙関係を探っています。2色の構成で、「光と影」という絵画の中心の問題を扱い、平面性とモチーフの3次元性とその矛盾を絵画の中で解消せずに矛盾のまま絵画の豊かさとして残せないかと意識しながら制作しています。

天野|花木さんの修了制作の作品は観ていますが、ブレイクスルーになったと佐藤さんが言っている展示を観ていないので、画像で拝見しました。一見すると抽象画というか、クリアでミニマルな感じがするのだけど、実際には何らかの写真や、具体物に依拠している二重線みたいなものが描かれていますね。写真の引用というのも外部の1つですが、自分で撮影した写真ですか。

花木|最近は自分で撮影しています。

天野|少なくとも、具体物としてのイリュージョンがありますね。抽象的な図として成立していて、シェイプド・キャンバスの手法の作品もありますね。これ私は実物を観てないけれども、1番嫌な感じです。なぜかというと私が過去に扱った1960年代の日本画の作家で既にやっている作家がいる。直接的に形を削るので、物質性も出ますが、絵としての信用度が高いとも言えます。この作品は、作家が突き放した形ではない物質性が立ち現れているのが嫌な感じです。説明的で物と直接結びあったリアリズムに偏っている気がします。
でも、どこから典拠したのか分からないですが、全く分からないもの、不可解な形は面白く、気になる形もあります。

花木|僕の場合は、ドローイング、エスキースの段階で、7–8割くらいはその絵がどうなるかが決まっていて、残りの約2割は実際のサイズに引き伸ばし、最終的には僕が予想していた部分と、筆触などの出てきたズレを自分で受け止めて判断をします。

天野|建築シリーズは、おそらく今後洗練されて終わりという感じがします。観る側との関係性については前川さんと共通ですね。でもそれは絵画と言わずとも彫刻だとしても作品の大前提です。だからそれは別に置いておいても良いような気がします。あとこれは引っかかる作品ですね。面白いと思います。

花木|まだ、未発表作です。

天野|作家の価値判断と全く違いますね。これは何が描いてあるのかさっぱり分からないのだけれども、石組か網なのか、網状組織なのかもしれないけど、フレーム内フレームみたいに一応横切っている形ですね。これは、どこかからイメージが来ているのでしょうか。

花木|これは建築雑誌です。画面の中に描かれていない画面の外の構造体から発生した光と影を描く意識をしています。モチーフをできるだけ画面の中で消そうとしています。

天野|この作品も面白いのですが、かなり不思議な絵です。遠近法も狂っていて。おそらく引用しながらバイアスをかけて、花木さんが絵として作り変えているとしか思えないですね。

花木|でもそれはやっぱり写真をそのまま絵にしたら、絵である必要はないわけですからね。

佐藤|2人の話を聞いて、また外部の話も出ましたが、絵を描く時によくある文句で、「描くモチーフは何でも良い。」というのがあります。例えば「ペットボトルが描きたいのではない。絵を描くためにペットボトルを選んだ。」という言い回しがあります。私が言っている外部とは、それを含めたうえでの大きな枠のことを指していますが、それが分かればブレイクスルーできるのではないか、聞いてみたいです。

花木|学生の頃に絵画に新たな別の項目を入れて、作品を考えるという課題を出されたことがありました。その第3項、例えば絵画に時間の概念を取り入れた河原温などが挙げられると思いますが、作品を制作するうえで、オリジナリティに強烈な憧れを持っていて、挫折したこともあります。自分が何かと考えた時に、自分を構成している要素が外側のものでしかなかったです。自分自身を起点としてそれぞれの物事の関係性、あえて第3項を取り入れることで制作できないかと考えています。

佐藤|具体的な方法などありますか。

花木|画期的な方法が思いつかないので、今はモチーフでしか導入できていないのが課題です。この建築シリーズは、シェイプド・キャンバスで、パースペクティブを画面の中でパースをつけるのではなくて、矩形として馬鹿正直に導入して、変なものができるということをやっています。作り続けていくことでしか考えられないと思っています。

前川|僕は言葉にして制作をしていないので、この場でもやはりなかなか話せないというのが正直あります。佐藤さんは「僕にブレイクスルーが来た。」と言っていますが、自分自身では、明確な何かが起こってもいないし、人に見せることがなくても日常的に絵は描いているので、それが何かと言えないのが本音です。

天野|佐藤さんがどこにブレイクスルーを感じたのかを聞きたいです。

佐藤|前川さんがドイツに行く前の少し硬い絵を観ていて、それ以降変化していると思いました。

前川|作品は誰から見ても分かるように変化していますね。それが明確に1枚で変わったというより、グラデーションのように自分が描いていく中で変わっていくのかなと。
以前、共同スタジオにいた時に他の作家から影響を受けていた部分もあると思います。その頃は作品の鑑賞に耐えうる強さのようなものが興味の対象でした。何をどう描こうというよりはプロセスというか、キャンバスにしても地塗りを厚く塗って、平滑にして物質としての強さを目指していました。

天野|ドイツに行く前の作品は観ていないですが、非常にポエティックというか、今の絵に収斂して行く過程にいろいろな傾向の作品があり、そのさまざまな絵がある程度は描けてしまうのだと思いました。その器用さが絵としてまとめている。そこで選び取ったものがあるのではと思います。

前川|作品を言葉にしたいと思っていますが、明確に言葉にできないから、この形でしか自分が見ることができないというか。おそらく自分の言葉の捉え方だと思います。文章を組み立てて思考するというよりは、日常から断片的に物事を見て、詩の言葉を組み立てるような状態で生きています。なかなか言葉としてつながらないというのが本音です。

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プロフィール
花木彰太
Shota Hanaki

アーティスト
1988年愛知県生まれ。愛知県在住。
性としての絵画をテーマとし、日常的な風景や建築、家屋などの構造物とそこから生まれる光と影を色面、線など絵画の基本的な要素に還元し絵画を制作。
主な展覧会に「meeting」(GALLERY VALEUR、愛知、2015年)、「in the forest」(metsa、愛知、2015年 )、「Flesh and bone」(海岸通ギャラリー CASO、大阪、2013年)などがある。

《structure》2015


前川祐一郎
Yuichiro Maekawa

アーティスト
1981年静岡県生まれ。愛知県在住。
前川の作品は、制作するなかで画面の内や外で感じられる知覚を頼りにして描かれており、他者と感覚として共鳴できる部分を大事にしながら、描かれたものが想像力を誘発するような画面について考察している。
主な展覧会に個展(愛知県立芸術大学サテライトギャラリー、愛知、2015年)、「Row Row Row Your Boat/TWS-Emerging 2014」(トーキョーワンダーサイト渋谷、東京、2014年)などがある。
syuichiromaekawa.blogspot.jp

《untitled》2015


天野一夫
Kazuo Amano

美術評論家
1959年東京都生まれ、愛知県在住。O美術館学芸員、京都造形芸術大学教授、豊田市美術館学芸員を務める。主な企画に「ART IN JAPANESQUE」(O美術館、東京、1993年)、「メタモルフォーゼ・タイガー」展(O美術館、東京、1999年)、「近代の東アジアイメージ —日本近代美術はどうアジアを描いてきたか」(豊田市美術館、愛知、2009年)、「変成態 —リアルな現代の物質性」展(gallery αM、東京、2009–10年) などがある。


佐藤克久
Katsuhisa Sato

美術家
1973年広島県生まれ。
愛知県在住。活動当初は概念的な立体や写真作品を発表していたが、近年は絵画形式を中心に制作している。
主な展覧会に「反重力」(豊田市美術館、愛知、2013年)、「リアル・ジャパネスク」(国立国際美術館、大阪、2012年)などがある。MAT, Nagoyaのコミッティーメンバーも務める。
satokatsuhisa.jimdo.com

《ものだね》2015


開催日|2015年11月27日(金)19:00–21:00
会 場|Minatomachi POTLUCK BUILDING 2F: Project Space
スピーカー|花木彰太、前川祐一郎、天野一夫
聞き手|佐藤克久
来場者|80人