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ドキュメント

Botão Exhibition vol.4
Daniel Göttin / ダニエル・ゲティン
「DOUBLE VIEW」
アーティストトーク

福田|遠藤利克さんが出品した火を使った作品を展示した時は、行政に内緒で火をつけたら通報されて、消防署が来る騒ぎにもなりましたし、ドイツ在住の竹岡雄二さんには、彼がドクメンタに初めて出した《パブリック スカルプチャー》という作品を再現してもらいました。
私は当時鉄鋼所でアルバイトをしていたので、自分で溶接した鉄板でできたカタログを作りました。表はシルクスクリーンで、中を見るにはペンチが必要です。1度見たら2度見ない。これは第2回のカタログで8kgあり、1987年に作りました。1,500円で250枚。よく売れました。溶断を使ったりニスを塗ったりしても錆びるのですが、買ってくれた人はそれを気に入ってくれました。費用の問題で中はコピーで印刷しているので、1つも同じものがないです。「展覧会やりました。」だけだとつまらないので、カタログとして記録を残すことも必要でした。
私は東京から群馬に人を呼びたい。地元作家の展覧会をやっても人は来ないので、東京でもできない展覧会、できない有名作家を呼ぶしかないと思いました。有名作家を呼ぶとCONCEPT SPACEに興味を持って、人が来ました。すると特に外国人作家の間でCONCEPT SPACEで展示することがステイタスになり、問い合わせの連絡がくるようになりました。これは名古屋でも展覧会をやったことがあるイギリスのロジャー・アックリングという作家で、レンズを使って太陽光で流木を焼いていく作品を発表しています。東京都立美術館「今日のイギリス美術」展(1982年)で初めて日本に招聘され、個展形式のブースで展示していましたが、彼の作品は一見すると何もなくて、よく見ると直径2mm長さ10cmほどの細い竹が虫ピンで留めてあり、太陽光線で焼いた焦げが1箇所ありました。その竹が3つあっただけです。私はこんな繊細な展示をする人がいるのかとショックを受け、彼に声をかけましたが、彼が本当に来てくれるのか、断られたらと心配でした。しかし彼がCONCEPT SPACEに最初に来た時、「ファンタスティック!」の連呼で、結局彼が2015年に亡くなるまで、23回展覧会を開催し、2009年が最後の個展でした。CONCEPT SPACEはコマーシャルでやっていないのですが、この時の彼の作品は全て売れました。
イミ・クネーベルの作品も全て売れました。彼はドイツ・デュッセルドルフに住んでいて、知人の紹介で行ったら、ある小学校の校舎跡が全て彼のスタジオでした。1階でカラーフィールドの作品をプラスチックペーパーにアクリルで作っていて、彼は約6万色をストックしていると言いました。2階で木のフレームの部屋、3階がアルミニウムの部屋で、6人ほどアシスタントがいました。「会うだけだよ。」と知人に言われていたのに、クネーベルに会った時に「あなたの展覧会をやりたい。」と私は言ってしまい、彼は眉間に皺をよせ、私を睨みました。彼はブリンキー・パレルモと一緒で、ヨーゼフ・ボイスの1番弟子としても知られていますが、当時白髪オールバックで見た目が怖かったです。彼はしばらく考え込んで、私を別の部屋に連れて行きました。そこには額に入っている絵が1,000枚くらいあり、「好きな作品を持って行って展覧会を企画して良い。」と言われました。でもその作品ではなく、今できたばかりの作品が壁にピンで留められていたので「これを展示したい。」と私は言いました。すると彼は「これはトレーニングのためにプライベートで作った作品だから発表はしない。」と言い、私は「だから展示したい。」と強引に渋川に持って来ました。そんな門外不出の作品を展示したので、ギャラリーや美術館にほしいと言われましたが、結局あるコレクターがまとめて買っていきました。彼の個展は2008年と2010年に2回開催しました。
その経験から私は臆せず頼んでみるものだと思いました。「好きです。」と言われて嫌な人がいないように「大好きだから持って行きたい。」と頼んで、彼の個展が実現しました。

また、前橋市にある群馬県の重要指定文化財で明治天皇のために作られた迎賓館・臨江閣という釘1本打てない場所で展示をするために、群馬県知事を訪ねました。最初はもちろん断られましたが、また百度参りで挑み、ここでは1992年から展覧会を14回開催しました。1度やると前例ができて、あとは慣習です。約140年前の建物のとても素晴らしい空間で、2013年にはダニエルさんとゲルダさんにも参加してもらいました。
カタログの表、アルミ板には「数寄者達」「since 琳派」と書きました。持論ですが、私は、琳派の尾形光琳の《紅白梅屏風》以降、日本では新しいものが出てきていないと考えています。《紅白梅屏風》の超リアリズムとアブストラクトが渾然一体となった作品は世界でも類を見ない、そのくらい独特だと思います。安土桃山時代のこの絵以降、私たち日本人は欧米の輸入された文化に無防備に汚染されてきたのではないかと。だから私は琳派の光琳以降の絵から学び、光琳や光悦、俵屋宗達、鈴木其一、酒井抱一などの作品と現代美術作品を臨江閣に一緒に展示しました。床の間に飾った光琳の掛け軸など、本物でしたが、知れると盗まれてしまうのでレプリカとして展示しました。また、ヴォルフガング・ライプの牛乳の表面張力を使った作品は、光悦の茶碗と一緒に展示をし、皆を驚かせました。
「古美術と現代美術を一緒に並べるなんて非常識だ!」と古美術と現代美術、両方から叱られました。
臨江閣の普段の来場者は1週間で80人ほどでしたが、展覧会を開催したら1週間で800人ほど来ました。それからはこの企画もずっと続いています。
CONCEPT SPACEでの展示では古美術専門の美術館のコレクションを借りて、時価数千万円の光琳の屏風と現代美術作品を一緒に並べたこともあります。大抵借りられないと諦めてしまいますが、借りられないと思うと動かないし、借りるためなら頭くらい何度でも下げます。
凄かったのはロバート・ライマンで、彼は2004年にDIC川村記念美術館で個展をやっていて、それ以前に呼ぼうとしましたが実現しませんでした。彼の作品をドイツのコレクターから借りられることになっていましたが、保険をかけるお金がありませんでした。セキュリティーが全くない木造住宅のCONCEPT SPACEで展示すると、保険だけで80万円。それで諦めました。でも頭を下げれば、だいたい貸してくれます。
他にも住宅メーカーのセキスイハイムの社長から直々にお願いされて「建物と美術を融合させたような提案をしたいので、企画をしてほしい。」とこれまで展示もしました。
また鉄壁でできた「R2」というギャラリーや、「AIS」という現代美術の学校を作って、外国人作家やキュレーターを呼んだりしています。
「なぜ私は作家にも関わらず、展覧会を企画するのか」
キュレーターが企画すれば良いですし、私が企画する必要はありません。本当はやりたくないです。しかし日本ではやらざるを得ないという危機感を持っています。展覧会を企画することは、作家が作品を制作する作業に等しく、展覧会そのものが1つの作品と言えます。私は展覧会を自分の作品だと考え、作家という材料を使って展覧会という作品に仕立てています。そう言って作家から怒られたことも多々ありますが、そういう覚悟でやっています。そして先に紹介した作家やドナルド・ジャット、ジョセフ・コスース、アリギエロ・ボエッティなどの展覧会をCONCEPT SPACEでやってきました。苦節35年、本が書けるくらいたくさんの出来事がありました。ある大学教授には「長屋に人を招くことも、長屋で現代美術の有名な作家の展覧会をやることも失礼だ。」とお叱りを受けたこともあります。それらも含めて、面白い出来事がいっぱいあり、あっという間に私は50代半ばになってしまいました。

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プロフィール
ダニエル・ゲティン
Daniel Göttin

アーティスト。1959年スイス・バーゼル生まれ、同地在住。
シンプルな材料によってできる直線を用いたミニマムなインスタレーション作品を展開している。
これまでスイスなどヨーロッパ各国をはじめアメリカ、オーストラリアなどで作品を発表し、1997年以降日本でも個展、グループ展を開催。
2016年9月から開催されるさいたまトリエンナーレへの出展も控えている。
また同じくアーティストのゲルダ・メイズとともに、ギャラリー「Hebel 121」(バーゼル)を運営している。
http://www.danielgoettin.ch/

《DOUBLE VIEW》コンセプト ドローイング


ゲルダ・メイズ
Gerda Maise

アーティスト
1947年スイス・バーゼル生まれ、同地在住。身近な素材を使ってミニマルでコセンプチュアルな作品を制作。ヨーロッパを中心に作品を発表、近年では日本でも作品を発表している。また「美術と生活」がともにあることを重要視し、教育現場や展覧会企画にも携わっている。1998年より自宅兼ギャラリー「Hebel 121」(バーゼル)をダニエル・ゲティンと運営。
http://www.hebel121.org


福田篤夫
Atsuo Fukuda

彫刻家
1958年北海道生まれ、群馬県在住。日本で伝統的に使われてきた素材や技法を用い「日本美術の独自性」について彫刻作品を制作し考察している。また1982年より群馬県渋川にて「住まうこと、制作すること、展示すること、企画すること」をコンセプトに長屋を改装したギャラリー「コンセプトスペース」を運営。国内外のミニマルアート、コンセプチュアルアートの作品を中心に発表を行っている。
http://www.conceptspace.jp


開催日|2016年1月16日(土)17:00–18:00
会場|Minatomachi POTLUCK BUILDING 1F: Lounge Space
スピーカー|ダニエル・ゲティン、ゲルダ・メイズ
ゲスト|福田篤夫
来場者|22人