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MAT Exhibition vol.1
THE BEGINNINGS (or Open-Ended)
レポート|飯田志保子

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港まちで生まれる創造的な活動の連鎖と継続を象徴したオープニング展「THE BEGINNINGS (or Open-Ended)」。複数のものごとのはじまりを示唆する本展は、Open-Endedが意味する「終わりのない/変化を許容する/開かれた」状態というひとつのコンセプトの下、2期に渡って同じ2組で違う展示を構成した。2期を通して展示したフィッシュリ/ヴァイスの映像作品《事の次第》(1986–87)は、重力、浮力、遠心力といった不可視のエネルギーを用いてドミノ倒しのように事物が連鎖反応と運動を起こす様子を捉えた歴史的な名作である。人間が完全にはコントロールできない自然の力学を取り入れ、モノ自体がもつ可動性、流動性、偶然性を包含している。毛利悠子を含む多くの現代アーティストに影響を与えた本作は、ものごとをゆるやかに接続し運動を持続させるという点で本展の象徴的な作品となった。 一方、Part1で既存作、Part 2で新作を展示した毛利悠子は、並置された《事の次第》と対話をしながら約半年間かけて新作を練り上げた。近年活躍がめざましい毛利は、羽箒、電球、ベルといったガラクタ同然の日用品や手作りの楽器などを主な素材とする。それらを組み合わせた《大船フラワーセンター》(2011–)に代表されるインスタレーションは、方位磁石や観客の動きに応じてスイッチが入った場合に流れる微弱な電流によって、予測不能なタイミングでベルが鳴ったり、モノが突然動いたり回転したり、光が勝手に明滅したりする、偶発的な運動の連鎖が特徴的である。新作の《fort-da(いないいない、ばあ)》は、仮設壁で仕切られた空間の奥側でイメージ生成工場のように7つのスキャナが各種オブジェの動きを延々とスキャンし、デジタル・データとして保存し続ける。うち、7枚のイメージがプリントされ、《Pleated image》と名付けられ手前の空間に展示された。印画紙上に現れているのはスキャンによるデジタル・データを画像化した一過性の偶発的なイメージで、換言すればデジタル信号のランダムな再結晶化。運動を留めることの不可能性に言及したこれらの新作には、もはや「写真」と呼ぶには窮屈なぐらいの斬新さと美しさがあった。

本展はアーティストとご協力者の方々の尽力に加え、MAT, Nagoyaと港まちづくり協議会の柔軟性と機動力によって実現した。特に毛利流のイメージ論と形容しうる驚きの新展開には、アーティストの新たな挑戦を制作段階からサポートするMAT, Nagoyaの真髄が発揮された。また、約半年の間に何度か行った毛利の滞在制作は、拠点のMinatomachi POTLUCK BUILDINGを展覧会のみならず制作支援の場として、アーティストの思考プロセスや生活スタイルを受け入れ、港まち内外の人々との交流の場にしていきたいというMAT, Nagoyaの活動方針に合致した。その経験は後に実施されたスタジオ・プログラムにも活かされ、アートを通して独立した事業のひとつひとつを連関させていく媒介者としてのMAT, Nagoyaの存在感が十二分に示された最初の実績となった。アーティストとMAT, Nagoyaが相互に飛躍を遂げるオープニング展になったことを非常に嬉しく思うと同時に、今後の活動が益々楽しみでならない。

 

プロフィール
飯田志保子
Shihoko Iida

キュレーター / 東京藝術大学美術学部先端芸術表現科准教授
1975年東京生まれ。名古屋 / 東京在住。
1998-2009 年東京オペラシティアートギャラリーキュレーター。2011 年までクイーンズランド州立美術館に客員キュレーターとして在籍後、「あいちトリエンナーレ2013」共同キュレーター、「第15回アジアン・アート・ビエンナーレ・バングラデシュ」日本公式参加キュレーター、「札幌国際芸術祭 2014」アソシエイト・キュレーターなどを歴任。MAT, Nagoyaのコミッティーメンバーも務める。