youtube
instagram
twitter
facebook
instagram
youtube
Contact Access
mailnews
Documnet

ドキュメント

Botão Exhibition vol.4
Daniel Göttin / ダニエル・ゲティン
「DOUBLE VIEW」
アーティストトーク

MAT, Nagoya・吉田|Botão Galleryでのダニエルさん、Star Galleryでのゲルダさんの展示に合わせて、2人と縁がある群馬県渋川市でCONCEPT SPACEを運営している福田篤夫さんに来ていただきました。まずBotão Galleryの改修と企画監修をしてくださった渡辺英司さん、よろしくお願いいたします。

渡辺|私は作家ですが、大工をやっていたことがあり、作業場を作ることや建物の改修などをよくやっています。以前私が名古屋のあるビルの1階を展覧会ができるように改修したスペースを、ダニエルさんが訪ねてくれました。ダニエルさんとゲルダさんはスイスのバーゼルで、パン屋さん跡を改修したHebel 121という住所を名前にしたギャラリーを運営していて、そのスペースと私が作ったスペースとで展覧会を交換しないかという話になりました。そこで私が元ボタン屋さんをBotão Galleryに改修していた時だったので、ダニエルさんがBotão Galleryで、私がHebel 121で展示することになりました。
ダニエルさんはCONCEPT SPACEでも展示したことがあったので、今回福田さんがこちらへ観に来ることになりました。福田さんもダニエルさんも私も、3人ともスペースを作って運営していて、福田さんが来るなら、長屋の畳部屋を現代美術の展示に使っているCONCEPT SPACEについて、35年間その道でパイオニアとして活動してきたお話を伺おうと思いました。

福田|私は北海道出身で、名古屋芸術大学で4年間彫刻を学んだ後、群馬県渋川市に移り住みました。渋川は妻が住んでいた場所で、私も移り住んで約35年ですが、最初は日本のどこにあるかも分かりませんでした。自分が住むために移り住んだ木造4軒長屋のアパートがCONCEPT SPACEであり、その活動も35年になります。当時既に築30年でアパートが汚かったので、大家さんにきれいにしたいから色を塗っても良いか尋ねました。奇抜な色でなければ良いという話だったので、白でも塗ってみようと4畳と6畳、襖も取っ払って10.5畳のスペースの改装を始めました。古い土壁の空間を白にするのに一斗缶のペンキを約10缶使いました。下地処理なども後から知ったのですが、当時何も知らず、見よう見まねで壁を塗ってはシミが出て、シミとの戦いで2ヶ月かかりました。最終的には暗かった部屋が明るくなって、快適な住居となりました。私がCONCEPT SPACEを始めたのが1982年で、MAT, Nagoyaのディレクターも全員1982年生まれということで、それも奇遇ですね。
群馬県には1988年にハラ・ミュージアム・アークという原美術館の別館もできましたが、1982年当時は県立近代美術館があるだけで、美術の環境がほぼありませんでした。200万人都市の名古屋から群馬に移り住んで、自分は作家として物を作る人間としてやっていこうとした時に、市民はいるけど、仲介するアートスペースやギャラリーが全くない、一体どう見せたら良いのか分からないわけです。思案していたら、白く塗って快適に住もうと思った住居が意外と使えるのではと思い、最初に私の個展を開催しました。するとNHKニュースや地元新聞などに取り上げられ、1週間で300人近い人々が訪れました。渋川は東京から北に100kmで、鈍行列車で約2時間かかります。中央集権的な言い方だと、群馬県民は地元ではなく、東京を見ています。私の個展を開催して地元の人が来てくれましたが、どうせ「都落ち」になってしまった渋川で骨を埋めるなら、好きな作家に会い、好きな作品が観たい、好きな作家の展覧会をやろうと思いました。極端な言い方をすると、当時私は日本人作家をほぼ知らず、ミニマルアートとコンセプチュアルアートの作家しか好きではありませんでした。例えばイミ・クネーベルやリチャード・セラ、カール・アンドレ、オン・カワラ、ローレンス・ウェイナー、そうした作家が大好きで、まず彼らに手紙を出しました。当時はメールがないので手書きです。私は英語ができませんから友達に英訳してもらう、送って返事がくるまでに2週間かかる。返事を翻訳してもらって読む、そんなことを繰り返して、活動を始めました。
最初に決まったのがリチャード・セラでした。彼が1983年に東京のアキラ イケダ ギャラリーで初めて個展をやった時に、私はその前から彼と連絡を取っていたので行きました。白黒の小さな写真でしたが、CONCEPT SPACEはこんな場所だと彼に見せたら「やるよ。CONCEPT SPACEは若い作家の展示もするのか。」と。コマーシャルでなくノンプロフィットで、オルタナティヴスペース。当時そう言っていました。
彼は鉛をロール状に巻いた竹輪のようなものが3本並んでいる新作を持ってくると言いましたが、重さが800kgで床が抜けてしまうので、それは諦めました。でも彼の展覧会は結局3回開催しています。
カール・アンドレにも手紙を出しました。半年ほど経っても返事がなく、ダメかと思っていたら返事が来ました。手紙を見ると彼の名前はあるけれど、どこから来たかが分からなかったので翻訳してもらうと、シカゴ刑務所から届いた手紙で「やります。」という返事でした。彼は妻殺しの容疑で逮捕・拘留されていましたが、私はそんなことも知らず能天気に手紙を送って、刑務所へ転送されて返事が来ました。面白いことです。彼も当時で約1,300万円の新作を送ってくれましたが、「お前のとこなら1点100万円で売って良い。」と言われました。今思えば安い値段ですが、当時私は支払えなかったのでそのまま返しました。50cm×50cm厚さ0.5cmのアルミニウムの板が1枚、2枚、3枚と、それを床にただ並べただけの作品で、ゴミや足跡が付いても一切拭き取るなという指示がありました。彼の展覧会は2回開催しています。最近は《カッパー ギャラクシー》という、100mのロールになっている銅の作品を展示しました。
私にとってはここが住居でもあるので、展覧会を開催している時も展示空間に布団を敷いて寝ますし、開催しない時は自分のアトリエとして使っています。ダニエルさんもそうでしたが、作家が来ればここに住んで制作も発表もしてもらいます。私のコンセプトは「住む、制作する、発表する、企画する」、この4つを1つのスペースで行っていくことです。今思えば、若気の至りでいろいろやってきて、乱暴なこともたくさんやりました。しかし展示依頼を断られたのは「ここでやっても人は来ないだろう。」という何人かの日本人作家だけで、依頼した外国人作家はほとんど展示をしてくれましたし、搬入にも来てくれました。作家と作品が一緒に来てくれることが重要でした。
長屋で現代美術を展示することが際立って珍しいと、35年間で155回展覧会をやってきました。不景気の時はこの建物を壊す話もありましたが、今でも継続できています。最近はここで展示をしたいと作家からファイルも届きます。これまでCONCEPT SPACEで展示した作家が「渋川というところに面白い場所があるから展示しないか。」といろいろ紹介してくれています。
ただ長屋スペースのユニークさなどを度外視しても、「来場者を待つ」ことが最大の宿命でもあります。いろいろ情報を出しても、結果的に興味を持ってもらえないと人は来ません。
そこで次に考えたのは美術の「出前」でした。渋川に総合公園という芝生がきれいで何もない場所があります。そこで野外美術展をやってみたいと思い、市長に掛け合いました。どこの馬の骨か分からないような若者が突然訪ねて来たと門前払いを受けましたが、その時私は市長を100回訪ねようと思いました。「百度参り」です。それでダメなら諦めようと覚悟したら7、8回目で市長が「いい加減にしろ、何がしたいのだ。」と言ったので、野外彫刻展のことを伝えたら許可がもらえました。「じゃあお金も出してくれ。」と言って、15万円出してもらいました。それが渋川現代彫刻トリエンナーレのはじまりで、第1回の来場者は4,000人ほどでした。今は有名な舞踏家の田中泯さんも1985年と舞塾を含めて10回ほど参加してもらいました。オープニングパフォーマンスでは、白塗り、裸で踊りをして、400人ほど来場がありましたが、子供は泣き叫ぶ、お年寄りはぶっ倒れるという感じでした。

1 2 3

プロフィール
ダニエル・ゲティン
Daniel Göttin

アーティスト。1959年スイス・バーゼル生まれ、同地在住。
シンプルな材料によってできる直線を用いたミニマムなインスタレーション作品を展開している。
これまでスイスなどヨーロッパ各国をはじめアメリカ、オーストラリアなどで作品を発表し、1997年以降日本でも個展、グループ展を開催。
2016年9月から開催されるさいたまトリエンナーレへの出展も控えている。
また同じくアーティストのゲルダ・メイズとともに、ギャラリー「Hebel 121」(バーゼル)を運営している。
http://www.danielgoettin.ch/

《DOUBLE VIEW》コンセプト ドローイング


ゲルダ・メイズ
Gerda Maise

アーティスト
1947年スイス・バーゼル生まれ、同地在住。身近な素材を使ってミニマルでコセンプチュアルな作品を制作。ヨーロッパを中心に作品を発表、近年では日本でも作品を発表している。また「美術と生活」がともにあることを重要視し、教育現場や展覧会企画にも携わっている。1998年より自宅兼ギャラリー「Hebel 121」(バーゼル)をダニエル・ゲティンと運営。
http://www.hebel121.org


福田篤夫
Atsuo Fukuda

彫刻家
1958年北海道生まれ、群馬県在住。日本で伝統的に使われてきた素材や技法を用い「日本美術の独自性」について彫刻作品を制作し考察している。また1982年より群馬県渋川にて「住まうこと、制作すること、展示すること、企画すること」をコンセプトに長屋を改装したギャラリー「コンセプトスペース」を運営。国内外のミニマルアート、コンセプチュアルアートの作品を中心に発表を行っている。
http://www.conceptspace.jp


開催日|2016年1月16日(土)17:00–18:00
会場|Minatomachi POTLUCK BUILDING 1F: Lounge Space
スピーカー|ダニエル・ゲティン、ゲルダ・メイズ
ゲスト|福田篤夫
来場者|22人