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MAT Exhibition vol.3
丹羽良徳
「名前に反対」
レビュー|小野寺奈津

本展では2014年にフィリピンにて行われたプロジェクトをもとにした映像作品《ゴミの山の命名権を販売する》を中心に、命名にまつわるさまざまなテキストと共に構成されたインスタレーションが展示された。
丹羽は作品発表を開始した当初から自らが発信する行為を通じて、一見すれば美術とは別の次元で存在しており、自分一人ではコントロールが不可能なように思われる社会的システムや歴史的な流れに介入を試みている。また、一時的に通念的な価値を組み替え、反転させるような振舞いを見せることで、私たちの常識に揺さぶりをかけ、世の中の矛盾や不条理を顕在化させる。
丹羽の作品に特徴的であるのはその宣言的なタイトルである。《ゴミの山の命名権を販売する》においても、一般的には無価値と思われている「ゴミの山」に価値を生じさせようという逆説的な行為を、丹羽自身が作品内で行うべき課題(タスク)として掲げていることが分かる。発話の特性を分析した言語哲学者であるJ・A・オースティン(1911–60)は、他者を動かし状況を変化させる可能性があるものを「行為遂行的(performative)」と称している。また話者の立場や文脈もこの発話の効果を大きく左右すると指摘する。無計画に法律でゴミの焼却処理を禁じたために、埋め立て地が拡大し続けていることはフィリピンにおける深刻な社会問題となっている現状がある。オースティンの概念を参照するならば、この状況においてタイトルとなっている課題は特にアクチュアルなものとして機能することが分かるだろう。

最終的にはオークションを通じて命名権の販売は成功するが、この埋立地の状況を改善するために用いられる資金によって実際にどのような変化が生じたのか、という結果までは映像に含まれていない。むしろ丹羽の主眼は、名前を持たない存在に対して命名権を与えるという提案から引き出される反応を通じて、命名と所有という行為の本質を問うことにある。また、販促物の制作や討論会の開催は、このオークションが一般に開かれていることを示し、プロジェクトの公共性を担保することにも寄与していただろう。翻ってみれば、これら一連の事柄は全てタイトル自体が孕むパフォーマティブな効力から派生しているものであり、それは鑑賞者である私たちに対しても何らかの態度決定を促す強度を持っているといえる。

プロフィール
小野寺奈津
Natsu Onodera

慶應義塾大学大学院博士課程
1987年東京都生まれ、同地在住。愛知県美術館学芸員を経て、現在、慶應義塾大学大学院博士課程在籍。これまで関わった展覧会に「14の夕べ」(東京国立近代美術館、2012年)、「芸術植物園」(愛知県美術館、2015年)、主担当として「出来事 -いま、ここという経験」(愛知県美術館、2016年)がある。「フルクサス」をはじめとする戦後美術を主な研究対象としている。