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Minatomachi POTLUCK BUILDING 3F:Exhibition Spaceでは、国内外問わず優れた映像作品を特集し、上映する「MAT Screening」を開催します。
第1回は、ニューヨークを拠点に活動するアーティスト、マーサ・ロスラーの作品を紹介します。
ロスラーは、1970年代より、映像、パフォーマンス、インスタレーション、テキストなどの幅広い分野で精力的に制作・発表を行っています。
近年では、シンガポールビエンナーレでの“Proposed Helsinki Garden at the Singapore Biennale”(2011年)など、市民協働のプロジェクトも記憶に新しいところです。
さまざまなメディアを用いたロスラーの作品は、一貫して現代の文化における社会通念や現実を社会的、政治的に鋭く分析しながらも、ユーモラスな視点を持ち合わせているのが特徴と言えるでしょう。
今回上映する“Semiotics of the Kitchen” 《キッチンの記号論》(1975年)では、料理番組のパロディーのように、台所に立つ作家本人が「A」「B」「C」…と順番に台所用品を画面に向かって紹介していきます。
作家により本来とは異なった使用方法が誇張されて紹介されるその様子は、社会における女性の権利や家庭内での家事などの一般的に可視化されにくい労働への、強い主張の現れのようで、見えない相手への鬱憤や怒りを表しているかのように攻撃的で暴力的です。
また一方でアルファベット順に台所用品を紹介することからは、近代化に伴い効率化、細分化され生み出された道具が便利である反面、不用なものでもあるという、ある種の滑稽さも見受けられます。
今回のスクリーニングでは、《キッチンの記号論》をもとに2003年にロンドンにあるホワイトチャペルギャラリーで行われたライブパフォーマンスを収めたドキュメンタリービデオ“Semiotics of the Kitchen: An Audition” (2011年)も同時上映します。
この映像では、オーディションによって参加した女性たちによる《キッチンの記号論》のパフォーマンスが記録されています。
約30年を経て再演される《キッチンの記号論》は、現代の社会においてどのように映し出されるでしょうか。
2本のビデオからは、時代の変遷とともに社会における女性の立場の変化や不変など、時を超え制作された作品であるからこそ感じることのできる、さまざまな問いが私たちに投げかけられてきます。
マーサ・ロスラー
アーティスト
1943年アメリカ・ニューヨーク生まれ。
映像、パフォーマンス、インスタレーション、テキストを中心に作品を制作。1970年代に発表された映像作品は、フェミニストアートの代表的な作品とされている。
ヴェネチアビエンナーレ(2003)、ドクメンタ(2007)、シンガポールビエンナーレ(2011)など世界各地で発表を行っている。
www.martharosler.net