youtube
instagram
twitter
facebook
instagram
youtube
Contact Access
mailnews
Documnet

ドキュメント

MAT Exhibition vol.1
THE BEGINNINGS (or Open-Ended)
レビュー|野中祐美子

私たちの身の回りには、様々な人やモノや情報が溢れ、多様な関係性が構築されている。そこには常に何らかのエネルギーが発生し、日常を動かす原動力となる。本展はそのような目に見えないエネルギーを視覚化し、これから始まろうとするMAT, Nagoyaの今後を見据えるような展覧会であった。本稿では作品の内容そのものへの言及よりも、本展がMAT, Nagoyaの最初の展覧会として開催されたことの意義を考えてみたい。
展覧会タイトル「The Beginnings(物事の始まり)」が示唆するように、本展はスペースと運営チームの活動自体の始まりを示すものであり、決意表明のように「Open-Ended」という言葉があとに続く。即ち「終わることなく、変化し、動き続ける」場所であろうということだ。
Part1では、毛利の《大船フラワーセンター》をフィッシュリ/ヴァイスの《事の次第》と隣り合う空間で展示した。どちらも日常のありふれたモノを使い、運動が一つのテーマとなり、目に見えないエネルギーを視覚化する。しかし、毛利の《大船フラワーセンター》は《事の次第》の影響を受けつつも「予定調和ではない」という点において異なる。毛利は「エラー、ブレ、ボケ、揺らぎ」といった曖昧で不確定な事象を敢えて作品の主題にしてきたし、そのような曖昧な状態を生成させ、鑑賞者の想像力にアクセスしようとする。
Part2で毛利が発表した新作は驚くほど実験的なものであり、これまで立体や空間に取り組んできた毛利が、初めて平面を扱う新たな展開でもあった。会場はゆるやかに可動壁で仕切られ、壁のこちら側には7枚の写真作品が展示され、ブレやボケによる写真の被写体は当然不鮮明で鑑賞者の想像力を掻き立てる。壁のあちら側はまるで実験室か工場のように複数のスキャナがフル稼働し、毛利作品にお馴染みのオブジェがひっきりなしにスキャニングされ続ける。壁のこちら側で整然と並んでいるイメージは、壁のあちら側で生成された大量のイメージの一部なのである。
この新作を作るため、毛利は6ヶ月間港まちに通いつめリサーチを繰り返した。展示からはその成果は一切見えてこないが、様々な人やモノと出会い、協力者を見つけ徐々に作品を形にしていく毛利の制作プロセスは、まちづくりに置き換えることもできるだろう。毛利自身認めているように、この新作はまだ完成とはいえない。しかしまちづくりとはすぐに成果が出るものではなく、今起きていることが数年、数十年後にようやく芽が出るように、未完成であることはまさにopen-endedな状態である。毛利の作品はこれからどのように変化していくのだろうか。港まちで得たエネルギーを携えて、数年後、再びここで彼女の作品を見てみたいと思う。その時、おそらく港まち自体もMAT, Nagoyaと共に成長し変化していることだろう。物事を動かす原動力となる場所には、それを可能にする人やモノや情報が集まる。MAT, NagoyaのあるMinatomachi POTLUCK BUILDINGとは、つまりそういう場所になるという期待を抱かせた展覧会であった。

プロフィール
野中祐美子
Yumiko Nonaka

金沢21世紀美術館学芸員
1980年愛知県生まれ、石川県在住。清須市はるひ美術館学芸員を経て現職。主な企画に「ブルーノ・ムナーリ アートのなかの遊び」(清須市はるひ美術館、愛知、2014年)、「SUPERFLEX One Year Project —THE LIQUID STATE / 液相」(金沢21世紀美術館、石川、2016年)などがある。