youtube
instagram
twitter
facebook
instagram
youtube
Contact Access
mailnews
Documnet

ドキュメント

MAT Exhibition vol.2
「絵画の何か」
トークシリーズ「絵画の夕べ」
第2回「種明かしと方法」

佐藤|今回は、1980年代生まれの2人の作家と学芸員の天野さんをお招きして「種明かしと方法」をテーマにお話を伺います。私は2人の作品を観ていて、最近彼らなりのブレイクスルーがあったのではないかと思いました。その辺りをどのくらい自覚しているのか、ぜひ聞きたいです。私の場合、突破口や変化があったとしても、それを言葉にするのに、2年から3年かかります。自分の中の文脈に位置付けるだけで終わってしまうので、今まさにその最中であろう2人が、何かをつかんでいるのであれば、今後の展開なども含めて聞いてみたいと思っています。天野さんは昔から膨大な量の作品を観ていらっしゃる方なので、ご意見をいただければと思っています。

前川|僕は大学で絵画を勉強し始めたのが2003年で、当時の絵画の状況として、具象絵画が流行している頃でした。僕も例に漏れず具象絵画を描いたり、インスタレーションのように、ものを配置した状態で何かを考えることを繰り返していました。大学院の頃は、ブリンキー・パレルモというドイツの作家を参照して、習作的に、木片に色を塗って積み木のように置いてみたり、絵を描く時に絵の具を画面に置くような感覚で、色を単位として捉えたりして制作していました。
2009年に名古屋市博物館のギャラリーで、佐藤さんも参加していた「THE CAVE」展が、大学を出て最初の展覧会でした。大学卒業後は、尾張旭市の共同スタジオで制作をしていました。作品数がまとまって来た時に、名古屋市名東区にあった喫茶店・木曜日で個展をして、ここから作品がずいぶん変わりました。それまでは強い色のギラギラとしたような印象が続いていましたが、一通りまとめることができたので、次の作品へとつながっていきます。
2012年頃の作品は、素材はテンペラと油絵の具です。テンペラは古典技法で、僕には合っていました。その後、2012年に知人の縁もありドイツのデュッセルドルフに1年間滞在し、風景をテーマにした作品を制作していました。
作品を描く時は、何も想定していないところから始めます。線が地平線になったり、点を重ねると植物になったり、結果として何か風景みたいなものに近づいて、言葉よりも前に、とにかくまず描き始めてしまいます。

天野|私は前川さんの作品を、愛知県立芸術大学のサテライトギャラリーの展示で拝見しました。その時の前川さんのテキストでこのようなことが書いてありました。「地平線や水平線に点やもの、人、鳥など」、これは具体的なイメージから発生しているのでしょうか。風景の起点となる何らかの、ドローイングやデッサンから取り込む回路があるのか、風景の構造のどのようなところから絵を起こしているのかを知りたいです。

前川|結果として風景になっていると言うか。描き始める時は特に何を描こうというところから始まることはないです。ドローイングとタブローを区別せず、作品の要素がヒントになって次の画面に表れるという感じです。

天野|パレルモの習作と言っていた作品ですが、前川作品はパレルモが絶対にしないような画面にニュアンスをつける絵画的処理をしていますよね。その点ではパレルモよりもタブローの意識が強いなと思いました。

前川|そうですね。後々、絵を描く要素として表れているので、その作品を作っている時は習作的ですが、僕の中では必要な作業だったと思います。

天野|パレルモの絵というのは、ウブなぐらいに素材感のようなものが抽出されているような気がしますが、前川さんの場合は素材そのものというよりもっと処理をしていますね。

前川|パレルモの作品を考えた時に、インスタレーションとまでは言わずとも、ものが空間に置かれた時にそれがどのような作用をするか、絵でもそういうことができないかと思っていました。絵の中で物語が片付いてしまうと言うより、絵が展示された時にどのように見えるかという意識で作品を作るというか。そういうことをやりたかったです。

天野|空間性の問題とか、芸術空間の中の存在の話になってきますよね。そうするとフレーム内の処理とはまた違う要素が出てくるわけです。

前川|絵の内と外を考える時のモチーフとしてのフレームです。絵を作るような意識で絵を描き、それが実際に展示された時の見え方にまで作用するような仕事になればと意識しています。

天野|素材の話だけに限定すると、油彩の上にテンペラも介在させて、また油彩を重ねていく手法は、ノイジーな物質性が最近の作品にはあって、もっと複雑になっているような気がします。またフレーム内フレームが窓のようで、風景を見ている絵というものの、手前にさらにまた描いているという感じがしますが、そういう意識はありますか。

前川|まさにそれはありますね。フレーム、額、窓というのはよく絵画のメタファーとして使われるものだと思うのですが、それはすごく意識しています。

天野|昔、美術史家のリオネルロ・ヴェントゥーリが「画家は窓の向こう側の景色を描くのだが、それは裸眼で見ているのではない。さまざまな過去の画家のフィルター越しに見ているのだ。」と言っています。このようにおそらく前川さんの中に風景のフィルターがあるのだと思います。企画者の佐藤さんの言う「外部性や、外部から何かを無理やり導入しないと似たり寄ったりな現状を突破できないのでは?」という問いはどう思いますか。

前川|僕は何が外部なのかというのが、あまりよく分からないです。外部を取り込む必要があるのかという話だと思います。

佐藤|2人は愛知県立芸術大学油画科の額田宣彦研究室出身なので、生粋のフォーマリストだと思うのですが、とにかく絵が好きで、絵の中で完結するようなものを求めているのではないかと思います。ここまでの話で相違点など意見があればお願いします。

前川|絵の中で完結するというのをそのまま受け入れるのはなかなかできないと思います。

佐藤|その違和感を、どの部分が受け入れられないのかが言葉にできたら、それが答えになるかもしれないですね。

前川|今回の「絵画の何か」の佐藤さんの企画テキストに、「ただ純粋に絵が描きたいだけなのに!」という意味の書き出しで文章が始まりますが、それでないといけないのかと。ただ良い絵が描きたいだけなのに、というところに僕は留まっているというか。もっと外部を取り込まなくてもできることがあるのではないかということより、1枚の絵としてきちんと捉えて、作品にする。自分の基準でしかないのですが。

佐藤|1枚の絵と捉えた時に、完結しているということですか。

前川|そういうことも言えるかもしれないのですけれど、そこに他者の存在が出てくるのではないでしょうか。うまく言葉にできないです。

佐藤|私もどちらかというとフォーマルな考え方を選んでいますが、それは時代の状況によって常に揺れざるを得ない事態になるわけです。絵の中で完結するように描いていると、とんでもないことが世の中で起こった時に、自分は果たしてスタジオの中だけで完結するような仕事だけに留まっていて良いのだろうかと、常に揺らぎます。でも長いスパンで見ると、フォーマルな考え方はブレないので正しいと思いますが、やっぱり人間は弱くて、今この状況でできること、自分の立場をそのまま拡張できる要素というのがないということが、私の悩みで、分からないところです。花木さんはどうですか。

1 2 3

プロフィール
花木彰太
Shota Hanaki

アーティスト
1988年愛知県生まれ。愛知県在住。
性としての絵画をテーマとし、日常的な風景や建築、家屋などの構造物とそこから生まれる光と影を色面、線など絵画の基本的な要素に還元し絵画を制作。
主な展覧会に「meeting」(GALLERY VALEUR、愛知、2015年)、「in the forest」(metsa、愛知、2015年 )、「Flesh and bone」(海岸通ギャラリー CASO、大阪、2013年)などがある。

《structure》2015


前川祐一郎
Yuichiro Maekawa

アーティスト
1981年静岡県生まれ。愛知県在住。
前川の作品は、制作するなかで画面の内や外で感じられる知覚を頼りにして描かれており、他者と感覚として共鳴できる部分を大事にしながら、描かれたものが想像力を誘発するような画面について考察している。
主な展覧会に個展(愛知県立芸術大学サテライトギャラリー、愛知、2015年)、「Row Row Row Your Boat/TWS-Emerging 2014」(トーキョーワンダーサイト渋谷、東京、2014年)などがある。
syuichiromaekawa.blogspot.jp

《untitled》2015


天野一夫
Kazuo Amano

美術評論家
1959年東京都生まれ、愛知県在住。O美術館学芸員、京都造形芸術大学教授、豊田市美術館学芸員を務める。主な企画に「ART IN JAPANESQUE」(O美術館、東京、1993年)、「メタモルフォーゼ・タイガー」展(O美術館、東京、1999年)、「近代の東アジアイメージ —日本近代美術はどうアジアを描いてきたか」(豊田市美術館、愛知、2009年)、「変成態 —リアルな現代の物質性」展(gallery αM、東京、2009–10年) などがある。


佐藤克久
Katsuhisa Sato

美術家
1973年広島県生まれ。
愛知県在住。活動当初は概念的な立体や写真作品を発表していたが、近年は絵画形式を中心に制作している。
主な展覧会に「反重力」(豊田市美術館、愛知、2013年)、「リアル・ジャパネスク」(国立国際美術館、大阪、2012年)などがある。MAT, Nagoyaのコミッティーメンバーも務める。
satokatsuhisa.jimdo.com

《ものだね》2015


開催日|2015年11月27日(金)19:00–21:00
会 場|Minatomachi POTLUCK BUILDING 2F: Project Space
スピーカー|花木彰太、前川祐一郎、天野一夫
聞き手|佐藤克久
来場者|80人